―家畜尿由来の有機液肥を使って低コスト稲作栽培を推進―
有機液肥で広がる耕畜連携
佐賀県杵島郡 杵島農業改良普及センター

 佐賀県の南西部、杵島山系が連なる山間・山麓地域と有明海に面した干拓を含む多様な立地からなる杵島郡は米、麦、野菜、施設園芸等の盛んな農業地帯である。

 そんな立地条件を生かし、家畜尿由来の有機液肥を使って低コスト稲作栽培を推進、有機液肥を中心に耕畜連携の広がりを支援しているのが、杵島農業改良普及センターだ。

 
杵島農業改良普及センター(佐賀県杵島郡白石町大字東郷字一本榎2546‐2、所長=古川敏氏)は、1市1町と東部の白石平坦地域の6町を所管する。管内の畜産農家戸数は約400戸、総農家戸数のおよそ5%を占める。このうち、家畜尿の処理を必要とする畜産経営は、酪農32戸、養豚24戸である。

 同地域においても家畜ふんについては、たい肥化の処理・利用の体制が整備されつつあるが、こと家畜尿については、コスト等の問題から施設整備までに至らずに環境面で種々の問題を抱えている。

 そのような状況の中、ある養豚農家が「尿の問題をこのまま放置するわけにはいかない。なんとか適正に処理することができないか」と農業改良普及センターに相談をもちかけられたことがこの取り組みのきっかけとなったという。

 一方、稲作農家では、経営者の高齢化や収益性の低下のなかで、消費者の望む特別栽培米(無化学肥料米)を低コストかつ省力化で実現できないかということを模索していたそうだ。

 そこで、杵島農業改良普及センターの作物担当、畜産担当を中心に行政、畜産関係機関(畜産試験場、家畜衛生保健所、農業技術防除センター)、JA(農産課、畜産課)が連携し、畜産農家、中でも酪農・養豚農家で発生する家畜尿を液肥として水稲栽培へ利用する試験をすすめることにした。

 「はじめは家畜尿を液肥として稲作農家が利用することになれば、お米にとってマイナスイメージになるのではないかと異議を唱える人もいました。確かに成分特性として窒素、カリウム成分が高く、そのままの施用では偏った肥料となってしまいます。また、畜舎の構造、季節により雨水等が混入し、家畜尿の成分が一定でなくなり利用しにくいといった問題もありました」(作物担当の田浦さん)。

 しかし、これらの問題を解決すれば、家畜尿の有効活用と畜産農家・稲作農家の有機的な耕畜連携の確立が図られるのではないかと考え、食品添加物のリン酸を添加する試験を試行したそうだ。

 リン酸を添加し、pHを7以下の酸性側に下げてアンモニア臭を抑え、肥料分としての窒素・リン酸・カリウムを豊富に含む理想的な有機液肥としてよみがえらせ、耕種農家の農作物への肥料として活用するねらいだった。

 「原尿100ccに、100倍に希釈したリン酸を用いて、中和滴定量を求め、1t当たりの中和量を決定することにしました。例えば、原尿100ccに対し100倍量のリン酸が15cc必要であった場合、求める1t当たりのリン酸投入量は1.5となります」(田浦さん)。

 この試験の開始当初、試験圃を提供した稲作農家は、通常の肥料を施用した場合の稲との生育の比較から「収量減を補償してもらわなければ困る」とクレームをつけたそうだが、最終的には収量が通常の肥料を使ったお米と同等であったことと、さらにタンパク含量が低いおいしいお米ができたことを評価したそうだ。

 「有機液肥は速攻的に肥効が表れ、肥料切れの良いことが倒伏しない、粒張りのある米の生産を可能としています」(田浦さん)。

 その後、有機液肥の評価が徐々に口コミで広がり、家畜尿の需要が増加してきているという。試験開始から4年経った平成14年度の有機液肥利用面積は10ha以上に拡大し、現在も拡大傾向にあるようだ。

 この液肥の施用は水稲の用水と一緒に流し込むだけという簡単なものだ。施肥は水稲の生育状況に応じ加減するが、ヒノヒカリの場合、1回目は移植後3日目、2回目の中間追肥は7月8日前後、3回目の穂肥は8月9日前後に実施するそうだ。また、稲作農家からの「おいしいお米だ」、「土がいきいきとしている」といった声も聞かれるようになって、耕畜連携の輪が広がりつつある。

 稲作農家の生産コストを比較した場合、化成肥料が10a当たり3865円に対し、有機液肥は2842円と1000円程度安くなっている。

 こうした取り組みが評価されて、平成13年度優秀畜産表彰等事業指導支援部門で優良賞を受賞している優良事例だが、この技術のさらなる普及に当たっては、地域での畜産農家と耕種農家が互いに結びつき、利用組織の整備が必要という。

 「施用前の土壌分析や家畜尿の成分分析、家畜尿の運搬および散布、その他の稲の管理が一体となって進んでいく必要があります。これらの活用のためには、運搬車やタンクの管理維持するための費用、施設維持費等が発生します。その他必要資材の調達も発生します。施用方法や調整自体はそれほど難しい問題ではないですが、耕種農家と畜産農家との連携、さらには行政、JA等関係機関との一体となった推進体制が確保されることが一番重要なことではないでしょうか」(田浦さん)。

 今後は、水稲のみではなく、タマネギ・レンコン等の野菜への利用についてもその有効性・施用体系を研究し、年間を通じた家畜尿の利用を検討しているそうだ。有機液肥を中心とした耕畜連携の輪が広がってきている。今後の展開がますます楽しみな取り組みである。



畜産コンサルタント8月号  2002