―近隣環境に配慮した郊外移転とふん尿のたい肥化を実現―
都市型酪農の長期安定経営を目指して
東京都瑞穂町・臼井牧場

今回は都市型酪農経営のなかで積極的な経営戦略や環境対策を講じている臼井牧場を紹介する。
 臼井牧場は、東京都の西北部に位置する瑞穂町郊外の農振地域に囲まれ、米軍・横田基地にも隣接した開放感あふれる環境の中、つなぎ飼養で乳牛43頭、育成牛20頭余り、年間総産乳量417t(昨年度実績)を誇る牧場だ。

先代より約60年弱、瑞穂町で酪農を行っているという歴史ある臼井牧場。以前は瑞穂町の市街地中心部に住居とともに牛舎を構えていたが平成11年に牛舎移転を決意。夏の暑熱対策や臭気対策のため風通しのよい開放牛舎を、以前から育成・肥育場として使用した現在の場所に新築し、ふん尿をたい肥化する縦型発酵処理装置も導入。さらに、周辺の耕種農家と連携した有機農業協同組合を設立して、たい肥販売を始めた。
経営者の臼井幸治さんは、東京都酪農協会の代表幹事や瑞穂町酪農組合の組合長などを務めた、地域でも有数の酪農家。臼井さんは「市街地で酪農を続けていくには、いずれ思い切ったふん尿対策をとらなければならないと考えていました。平成16年まで猶予期間がある環境3法もあり、将来も見通して平成11年に現在の場所に牛舎移転することを決めました」と決断した経緯を語った。

 東京都内で酪農を続けていくにはさまざまな問題が生じるが、とりわけふん尿対策といった環境問題に頭を悩ませる酪農経営者は多い。その処理問題だけともいえないが、瑞穂町でも50年前まで150軒余りあった酪農家も、現在では14軒と、実に以前の10分の1以下に減少してしまったという。

こういった状況のなか、ふん尿処理としてのたい肥化は進む流れだが、「特に東京都内での酪農はふん尿処理に関して時代の先端を進まざるをえない状況にあると思います。確かに月10万円ほどの電気代やふん尿に混ぜる水分調整材購入に月2万円といった維持費はかかりますが、現在、発酵処理装置で100%たい肥化しています。そのうち、約50%を農協を通じて直売所に納めたり耕種農家に直売し、残りはデントコーンの自給飼料の肥料に当てています。農家向けには2t車トラック1台分で5000円、販売所では袋詰めをして40当たり550〜600円で販売していますが、今後、参入者も増えて価格競争も始まるとみていますので、より効率的な販売も考えていかなければなりませんね」と臼井さんは言う。
また作業の合理化を進めるため、都内では初めての自動給餌機も導入し、実質2人の労働力で管理できるような体制を整えた。さらにこのほど、臼井牧場では酪農分野で都内初の家族労働協定を取り交し、調印式を行った。今後はさらに家族のよりよい労働環境を整えていきたいという。

現在、臼井牧場では、臼井さん夫妻と次男の学さんが従事しているが「以前は牛舎の敷地内に住居がありましたが、牛舎のみ移転しました。職と住を切り離したことで、皆の気持ちにメリハリがつき、作業効率も向上したように感じます。現在の作業合理化で完成した形となっています。例えば私たち夫婦で旅行しても、1人分のヘルパーさんを頼んでやりくりできるようにしました」(臼井さん)と合理化がスムーズに進んだことに自信がうかがえる。

さらに、牛舎の窓を大きくとり、暑熱対策を施したことで風通しがよく、結果的に衛生面の管理が改善されたこと、そして牛群改良の結果、1頭当たりの平均乳量が年間9500sと飛躍的に増加したそうだ。また、移転後は子牛の細菌感染の心配も少なくなり、順調な発育成績という。

次世代を担う次男の学さんは地域の若い酪農家仲間などで作った「農業を守る会」の会長も務めた経験もある、将来を嘱望される人材である。
仲間内では、将来的に酪農体験やアイスクリーム販売ができる観光牧場を共同で作ろうと動きがあるという。このような動きは、瑞穂町の酪農の発展維持に期待が高まる。
 これだけの牛舎移転や縦型発酵処理装置などの購入にあたり、臼井牧場の費用負担が気になるところだが、費用総額のうち国の補助金を50%、都の補助金を25%でまかなった。

その4000万円の借入れの償還がこの6月から始まるという。作業合理化、たい肥販売と順調な経営に臼井さんは「今後はさらに、乳量を伸ばしていきたいと考えています。と同時に牛群の能力も高めたいですね。昨年カナダから繁殖牛を1頭購入しましたが、よりよい系統を造成していきたいという意味で今は受精卵移植に関心があります。都市近郊の酪農経営にはさまざまな障害もあるかもしれません。しかし、何より牛が好きだという気持ちに尽きますが、東京の酪農の火を消してはならないと考え、息子とともに目標実現のため、さらなる努力を続けていきたいですね」と心強く語った。



畜産コンサルタント6月号  2002